健康寿命を延ばす

HEALTHY LIFE
星 旦二 (ほし たんじ)

1950年福島県生まれ。
首都大学東京・名誉教授。放送大学 客員教授。福島県立医科大学を卒業し、竹田総合病院で臨床研修。 後に東京大学で医学博士を取得。東京都衛生局、厚生省国立公衆衛生院、厚生省大臣官房医系技官併任、英国ロンドン大学大学院留学を経て現職。公衆衛生を主要テーマとして、「健康長寿」に関する研究と主張を続ける。 著書に『ピンピンコロリの法則』『元気で長生きな人に共通する生活習慣 29(』ワニブックス PLUS 新書)、『ピンピンコロリの新常識』(主婦友の社)など。

首都大学東京・名誉教授星 旦二

新しい家であれば、冬暖かくて夏涼しいことはあたりまえと思ってしまうためか、現実には「夏暑く、冬寒い」というクレームが多く寄せられるそうです。
家を建てる時、耐震のことは気になりますが、断熱性能のことまで気を配る方は少ないからでしょう。そもそも、日本では「耐震」に関してはとても厳しい基準があるのに、「寒さ」に関する法規制がありません。英国では最低室温の基準というものがあり、18℃以下の賃貸住宅には解体命令が出るそうですが、皆さんの家の冬の室温はいかがでしょう。2002年に新築した我が家の冬の室温は6℃でした。たぶんこういうお宅が多いと思われます。

お風呂での死亡者数は
交通事故の5倍!

そんな日本では、厚生労働省統計によると、家庭の浴槽での溺死者数は、平成26年に4,866人※1で、ここ十年間で約1.7倍に増加しました。 また、厚生労働省研究班調査では、救急車で運ばれた患者数から推計した入浴中の事故死の数は年間約1万9千人※2とされています。これは、交通事故死亡者数の約5倍※3。 その他、風呂場、廊下で倒れた方の数はこの何倍もあり、その後の後遺症で不自由な生活を余儀なくされている人はその何倍にもなることでしょう。 寒い家だけではなく、温度較差にも気を配りましょう。暖かい部屋から寒い脱衣所へ移動すると、血圧が急上昇、そして熱いお風呂に入ると血圧が急降下、そのために失神してしまい溺死してしまうのです。 つまり、お風呂での死因は温度較差による「ヒートショック」だと言われています。特に高齢者は、血管の弾力性が低下し、血圧が不安定となり、脳出血や脳梗塞そして脳塞栓にもなりやすくなります。 日本では、人の集まる部屋だけを暖かくし、廊下やトイレ、洗面所が寒いという家が多いのが現実。「家の作りようは、夏をむねとすべし。冬はいかなる所にも住まる」という吉田兼好の言葉にあるように、 日本の住まいは、夏を涼しくするように作り、冬は我慢すれば良いが常識でしたが、世界的に見れば、論外です。
寒さに耐えるのは美徳という精神論を卒業して、せめて先進国並みになりましょう。 また、空気を汚さない暖冷房にも気を配りたいものです。現在は、WHOだけではなく国連も新しい快適な健康住宅を推奨しています。 健康住宅は根本予防の一つです。

1年間の住宅内での
循環器疾患死亡者の推移

文1)羽山広文 他、「住環境が死亡原因に与える影響 その1気象条件・死亡場所と死亡率の関係」第68回日本公衆衛生学会総会、2009

※1 消費者庁 平成28 年1月20 日 News Release
※2 厚生労働科学研究費補助金 入浴関連事故の実態把握及び予防対策に関する研究 平成25年度 総括・分担研究報告書 研究 代表者 堀進悟
※3 平成29年中交通事故死亡者数 3,694人との比較

健康寿命を延ばすには、家中の温度差がないこと。

家の中では、暑さ・寒さを我慢する必要がない、どこにいても快適な温度が保たれていることが大切ということです。断熱性能を上げて、快適な設備を利用する。それは、新築でなくても、リフォームでも可能です。 もちろんその分の費用はかかりますが、健康寿命を延ばすということは、医療費を節約でき、長生きすれば、それだけ多くの年金を得ることができるので、余分にかかった費用は数年で元がとれる計算になります。

自負する程に勉強してきた私でも失敗した家づくり。本物の家づくりを知った今だからこそ、伝えたい。
家のイラスト
個人的な話になりますが、私の父は大工であり、私も小さい頃から建築家を目指していました。しかし、父の急死を機に予防を目指す医者になりました。
そんな私が家を新築して数年後、2月の終わりの寒い日の朝に温度をはかってみると、寝室温度が6・4 度でした。
以前から「寒い家だなあ」と感じていたものの、実際の温度の低さにビックリ。妻の血圧を上げてしまったのも、冬期のみではあるものの、呼び寄せて同居していた亡き母の呼吸器機能を低下させたのも、このことが原因だったのではないかと深く後悔をしました。
その後、我が家も断熱改修をはじめ、無垢材と漆喰で家を改築し、同時にクール暖も設置しました。おかげで体調はすこぶる快調です。病気を作らないための先行投資と考えれば、お金のかかる改築も決して無駄ではないことを、身をもって知りました。
健康住宅は、根本的な予防であり、本質的な健康支援環境づくり、つまり「ゼロ次予防」です。多くの皆さまが、暖かい家で健康的な暮らしをされることを願っています。

大阪府千里NT在住80名を住宅断熱以外に有意差のない2群で比較

※1 脱衣所で冬に寒いと感じる頻度が「よくある」「たまにある」と回答した者を寒冷群、「めったにない」「全くない」と回答した者を温暖群に分類

※2 両群に個人属性(性別、BMI、学歴、経済的満足度、同居者の有無)の差がない(χ2検定でp>0.05)ことを確認

※3 t検定でp<0.05

林侑江, 伊香賀俊治, 星旦二, 安藤真太朗: 住宅内温熱環境と居住者の介護予防に関するイベントヒストリー分析, -冬季の住宅内温熱環境が要介護状態に及ぼす影響の実態調査-,日本建築学会環境系論文集第81巻第729号, 2016.11
Ikaga Lab., Keio University(Yukie HAYASHI)

雑誌「SLOWHOUSE」(2018年発行)掲載記事より引用しました。